東京オリンピックで注視される「責任あるサプライチェーン」

 遠野はるひ(横浜アクションリサーチ/CCC東アジア運営委員)

[初出:「ピープルズ・プラン」Vol81(2018年8月発行)] 

(目次)

1多国籍企業規制への動き

  • 国連での攻防
  • 「CSR元年」とISO26000

2 ビジネスと人権

  • 「国連指導原則」の採択
  • ラナ・プラザビルの崩壊
  • 責任あるサプライチェーン

3 SDGsと東京オリンピック

  • 東京オリンピックは起爆剤
  • SDGsウォッシュ
  • 持続可能性に配慮した調達コード

 

オリンピックなどのメガスポーツイベントでは、開催国の人権問題が必ずクローズアップされる。東京オリンピック・パラリンピック(東京オリンピック)での労働分野の人権に関しては、「責任あるサプライチェーン」、「外国人技能実習生」に世界の視線が注がれることは必至だ。

「責任あるサプライチェーン」、いわゆる多国籍企業への規制に関する問題は、日本では理解を得にくく、国際的動向はあまり伝わっていない。私たちCCC(クリーン・クローズ・キャンペーン)(注1)は、ユニクロが発注をストップしたために倒産したサプライチェーン、ジャバ・ガーミンド労働者へのユニクロの責任を追及しているが(注2)、いくらブラック企業でもそこまで責任を取れとはいえないというのが圧倒的な日本の世論だということを、身をもって知った(注3)。海外と日本の意識のギャップはどこからくるのか、その背景を描いてみようと思う。

 

1多国籍企業規制への動き

●国連での攻防

「責任あるサプライチェーン」をめぐる議論は、多国籍企業の活動が目立ってきた1970年代からスタートした。国連を舞台に、(大雑把に括ると)規制を主張するNGO・国際労働団体・途上国(規制派)vs反対する多国籍企業・先進国(反対派)という対立構図が、現在も継続している。

多国籍企業に規制を加えようとする最初の動きは、法的拘束力のないソフトローではあったが、1976年に「OECD多国籍企業ガイドライン」、1977年にILO「多国籍企業および社会政策に関する原則の三者宣言」が作成され、多国籍企業へのゆるやかな規範とされた。1974年には国連経済社会理事会の下に「多国籍企業センター」と「多国籍企業委員会」が設置され、「多国籍企業に関する国連行動綱領」が策定されたが、合意が得られず廃案となった。

生産拠点の海外移転が加速された1990年代には、移転先子会社およびサプライチェーンでの労働問題が多発する。欧米では、ナイキなどブランド企業による途上国のスウェット・ショップへの生産委託、児童労働の利用、突然の工場閉鎖などが問題とされ、CCCを含む労働NGOによる企業批判キャンペーンが展開された。アジアでも、タイと中国の玩具工場火災で多数の労働者が焼死した事件を契機に、途上国の劣悪な労働条件を先進国の消費者に伝える運動が作り出された。

労働者の悲惨な状況を突きつけられ、「責任あるサプライチェーン」は21 世紀に入って大きく前進する。1999年ダボスの世界経済フォーラムで、アナン国連事務総長によりグローバル・コンパクトが提起され、2000年7月に正式に発足した。グローバル・コンパクトは、人権・労働・環境の問題を包括した企業行動原則だが拘束力は弱い。日本では2003年にグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンが創設されている。旧国連人権小委員会でも多国籍企業と人権の問題が論議された。1998年に「多国籍企業の活動に関する作業部会」が設置され、2003年に「人権に関する多国籍企業および他の企業の責任に関する規範」が採択されたが、翌2004年の国連人権委員会で承認されなかった。規制派と反対派の対立が繰り返されたのだ。

●「CSR元年」とISO26000

日本にこの国際的動向はどう伝播したのだろうか。財界は多国籍企業規制へと傾く国際的動向を理解しながら、財界主導の日本版CSRの立案を考えていたようだ。2002年日本経団連初代会長となった奥田碩元トヨタ社長の強力なリーダーシップの下に、傘下企業はCSRに対応しようと社内体制の整備をはじめた。2003年は「CSR元年」、日本経済新聞を筆頭にマスメディアにはCSRの文字が踊り、関連書籍が続々と出版された。「CSR元年」の後、経済産業省・厚生労働省・環境省はCSR研究会を設け報告書を出しているが、いずれもCSRは企業の自発的な取り組みであり、政府は側面援助をするという立場だった。

「CSR元年」の頃から、経団連はISO26000の策定過程に積極的にコミットしていく。ISO26000は2010年12月にISO(国際標準化機構)により発行され、企業だけではなくすべての組織を対象とする「社会的責任」(SR)の国際規格とされた。2005年から実質的な策定作業が始まり、ISO26000が重要視する、財界・NGO/NPO・労働組合等のセクターからなる「ステークホルダー・エンゲージメント」で内容の検討がおこなわれた。

CSRは企業が自主的に取り組むと考えていた経団連は、当初は規格化の動きに反対していたが、規格化が決まった後は日本企業の要望を入れていこうと策定作業に積極的に関与した。2007年頃から連合、NGO/NPOも策定作業に加わり、おそらく日本で初めての「ステークホルダー・エンゲージメント」が実現した。NPO/NGOはSRについて検討し普及させるために「社会的責任のためのNPO/NGOネットワーク」を設立し、現在27団体が参加している。連合、UIゼンセンなどの労働組合も、ISO26000を普及する方針を出している。

しかしながら、ISO26000が国際的に普及しているわけではない。2014年5月に出された経済産業省の報告書、「グローバル企業が直面する企業の社会的責任の課題」によれば、国際的には圧倒的に別のフレームワークであるGRIが使われていて、ISO26000は日本と韓国でのみ普及率が70%と高く、その理由としては経団連の後押しがあったからだという。

 

2 ビジネスと人権

●「国連指導原則」の採択

「責任あるサプライチェーン」を理解するために重要な三つの国際ガイドライン、「ビジネスと人権に関する国連指導原則」(国連指導原則)、「OECD多国籍企業ガイドライン」(OECDガイドライン)、ILO「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」(多国籍企業宣言)を紹介しながら、その後の国際的動向を見ていこう。

「責任あるサプライチェーン」で、最も影響力があるガイドラインは「国連指導原則」だ。2008年国連事務総長特別代表に任命されたジョン・ラギーは、多数のステークホルダーと議論を重ね、「保護、尊重および救済:ビジネスと人権のための枠組み」を策定し、この枠組みを実行可能にする「国連指導原則」が2011年国連人権理事会において全会一致で採択された。指導原則は①国家による人権保護の義務、②企業(ビジネス)による人権尊重の責任、③企業に関連した人権侵害への救済といった三本柱で構成されているが、メインは②の企業の責任である。企業は人権を尊重する責任を公にするとともに、「人権デュー・デリジェンス」(人権DD)を実施しなければならない。人権DDとは人権侵害が起きていないかチェックし、今後起きるかもしれない原因を見つけ回避するための方法。また、企業の責任は自社のみならずサプライチェーンにまで及ぶとされた。人権侵害が生じた場合は、「苦情処理メカニズム」と称される相談窓口などを通じて、国家・企業は被害者を救済する。「OECDガイドライン」におけるNCP(各国連絡窓口)の役割は、国家の「苦情処理メカニズム」として重要な位置づけを与えられている。

「国連指導原則」に次ぐ重要なガイドラインである「OECDガイドライン」は、参加国(OECD加盟国とその他10ヵ国)の多国籍企業に対して「責任ある企業行動」を求めて策定され、2011年「国連指導原則」を反映させようと改訂がおこなわれた。「OECDガイドライン」の内容は、情報開示、人権、雇用および労使関係、環境、賄賂の防止、消費者利益、科学および技術、競争、納税などの分野で、「責任ある企業行動」に関する原則と基準を定めている。法的拘束力はないが、NCPの存在など有用な機能がある。

「国連指導原則」採択後、国連人権理事会は実行部隊として「国連ビジネスと人権ワーキンググループ」を設置し、2012年からジュネーブで「国連ビジネスと人権フォーラム」を開催。2014年にはビジネスと人権の実施計画を示す「国別行動計画(NAP)」を作成することを各国に奨励した。また、同年6月の国連人権理事会では、規制派のエクアドル・南アフリカ政府が「ビジネスと人権」に関する条約が必要であると提起した。

●ラナ・プラザビルの崩壊

2013年4月24日、世界に大きな衝撃が走った。バングラデシュで8階建てのラナ・プラザビルが崩壊し、1133人が亡くなったのだ。ラナ・プラザビル崩壊の原因は、違法に設置された発電機と数千台のミシンの振動と違法建築。前日に壁のひび割れが見つかり立ち入りが禁止になっていたが、オーナーはブランドへの納期があるとして労働者に働くように強いた。

廃墟のなかから見つかったブランド企業のタグが、この悲劇の本質を物語っていた。「CSRは失敗した」という声がNGOや労働組合からあがるようになったのは、この事件の後からだ。CSRがいかに立派に作成されていても、現実には機能しなかったからだ。この事件を契機に、多国籍企業、ブランド企業に一定の責任を負わせるべきだという国際批判がさらに高まった。

国際労働NGOと国際労働団体はブランド企業への責任を追及し、①労働条件を改善するシステムの策定、②犠牲になった労働者への補償が話し合われた。①に関しては法的拘束力のある「バングラデシュにおける火災予防及び建設物の安全に関する協定」(アコード)が結ばれ、CCCも証人として立ち会った。②に関しては、ラナ・プラザ協定が結ばれ犠牲者に対して補償金の支払いが約束されたが、現地企業には資金がないので生産委託していたブランド企業を中心に資金を集めようと、「ラナ・プラザ信託基金」が設立され目標額3000万ドルを集めた。

●責任あるサプライチェーン

多国籍企業に社会的責任を負わせる動きも加速した。イギリス、ドイツ、フランス、アメリカなどは、「国別行動計画」を発表すると同時に関係する国内法の策定を急いだ。 

2015年7月のドイツ・G7エルマウ・サミットの首脳宣言には「責任あるサプライチェーン」の項目が設けられ、企業が人権DDを履行すること、「苦情処理メカ二ズム」の強化によりサプライチェーンの労働条件を向上させることを要請し、G7各国にNAP作成を促している。

2015年9月国連サミットでは「持続可能な開発目標」(SDGs)が、12月COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)では「パリ協定」が採択された。SDGsは世界の貧困をなくし、持続可能な世界を作ることを目標に掲げた2030年までの行動計画であり、17のゴールと169のターゲットから構成されている。労働に関係する目標8には「包摂的かつ持続的な経済成長、完全雇用とディーセントワークの促進」があげられている。

ILOは2016年の総会で「グローバル・サプライチェーンとディーセントワーク」を議題とした。「責任あるサプライチェーン」が世界的な問題となっていたこともあり、2016年の総会は、規制派と反対派から議論が噴出する長丁場となった。日本企業の立場はどうだったのだろうか。得丸洋日本使用者代表団会長は代表演説で「ILOはサプライチェーンを国際基準によって規制するのではなく、各国政府のガバナンスに委ねるべきである。」(「週刊経団連タイムズ」2016年6月23日)と発言している。この議題の結論は、グローバル・サプライチェーンの広がりにより経済成長や雇用機会の拡大が進む一方で、雇用条件や労働環境の悪化が見られ、ディーセントワークにはマイナスの影響がある、加盟国政府は適切な労働環境の確保、労働者の基本権利の保障、企業に対する支援の取り組みを促進すべきというものだ。この議論を経て、翌2017年3月にILO「多国籍企業宣言」が改訂された。

 

3 SDGsと東京オリンピック

●東京オリンピックは起爆剤

日本では「責任あるサプライチェーン」はどう扱われているのだろうか。

「国連指導原則」が採択された2011年、日本中が東日本大震災、原発事故の対応に追われていた。3.11以後の数年間、日本の社会運動も脱原発運動が主流となった。一般的に「国連指導原則」への関心は低く、サプライチェーン問題は、東日本大震災、続くタイの洪水により、製造業のサプライチェーンが寸断されるという窮地に直面した企業が、リスクマネージメントの課題として取りあげていた。

この状況を一変させたのが、2013年9月のIOC総会で開催が決まった「東京オリンピック」だ。東京都・政府・財界にとって東京オリンピックは停滞している経済成長の起爆剤とされ、2014年1月に期待とともに組織委員会が立ち上がった。2015年3月には経団連・商工会議所・経済同友会で構成される「東京オリンピック・パラリンピック等経済界協議会」(豊田章男会長)が結成され、企業が率先して政府・自治体、組織委員会と連携し行動していくと決めた。政府・財界は、メガスポーツイベントでの人権問題を予測して、それに対する批判をSDGsの実施・国内行動計画・東京オリンピックの三位一体でかわしていこうとしているようだ。組織委員会は「持続可能なオリンピック」というスローガンを掲げ、後述するように2016年1月に画期的な「基本方針」を策定する。2016年から事態は大きく動きだした。

●SDGsウォッシュ

6月末のG7伊勢志摩サミットに先立ち、国内外の60以上のNGO(横浜アクションリサーチも署名)は、連名で要望書「G7伊勢志摩サミット:G7各国はビジネスと人権に対する取り組みの強化を」を政府に提出し、①エルマウ・サミットに続き「責任あるサプライチェーン」を議題にすること、②国別行動計画の策定のプロセス開始を宣言すること等の要請をおこなった。

「責任あるサプライチェーン」を伊勢志摩サミットのアジェンダとしたくない安倍政権は、SDGsを前面に出してきた。6月末に開催される伊勢志摩サミットの1ヵ月前、「SDGs推進本部」を立ち上げ、「SDGs実施指針」の策定を決定。サミットではSDGs、なかでも保健分野・途上国女性・中東支援等を取りあげると発表した。2016年9月には「SDGs推進本部」の下に「SDGs円卓会議」を設け、「SDGs市民社会ネットワーク」などのステークホルダーを招聘して意見交換をおこない、実施方針を12月に発表した。

財界では2017年にSDGsブームが起きていた。経団連は国内・海外のSDGs関連団体を招き、セミナー・シンポを開催し、情報の収集と企業への拡散を精力的におこなった。マスメディアでも取りあげられるようになり、SDGsは周知されるようになっていく。同じ頃、政府・財界は新成長戦略「ソサエティ5.0」を考案していた。ドイツの国家プロジェクト「インダストリー4.0」に見られるように、世界ではIoT、AI、ビッグデータなどの技術革新による第四次産業革命が議論されていた。「ソサエティ5.0」は日本版「インダストリー4.0」といえよう。2017年11月、経団連は「ソサエティ5.0」実現を通じたSDGs達成というミッションを掲げ「企業行動憲章」を改訂した。ISO26000の発行を受けた改訂から7年ぶりのことである。

「SDGs推進本部」は9月から「ジャパンSDGsアワード」の募集をおこない、12月26日に首相官邸で表彰式が挙行された。そして、同じ日「SDGsアクションプラン2018」を発表した。アクションプランは、「日本SDGsモデル」の三本柱として、①SDGsと連動する「ソサエティ5.0」の推進、②SDGsを原動力とした地方創生、③SDGsの担い手としての次世代・女性のエンパワメントをあげ、具体的には「SDGs実施方針」に示された八つの優先課題に、既存の政策をあてはめ予算化したものだった。

ここに大きな疑問がある。12月26日に発表されたアクションプランに関して12月6日に開催された「SDGs円卓会議」では議題にもならず、推進本部の独断で突然決まった。「マルチステークホルダー・アプローチ」は何なのか。上辺だけで 環境問題に取り組んでいることを「グリーンウォッシュ」というが、最近「SDGsウォッシュ」という言葉を耳にする。東京オリンピックをかかげ、誰にも反対できないSDGsを使い、「責任あるサプライチェーン」の課題もSDGsに押し込め、自分たちの政策を正当化していこうとするこの政府・財界の姿勢は、まさに「SDGsウォッシュ」だ。

政府には東京オリンピックの前に終わらさなければならないもう一つの課題が残っている。「国内行動計画(NAP)」の策定だ。政府代表は国連「ビジネスと人権フォーラム」で、NAPを策定することを公言し、企業活動と現行法の現状を調査する「ベースラインスタディ」を議論するマルチステークホルダー会議を開く。NAPはSDGsを実現するために重要であり、東京オリンピックを視野に入れて策定したいと述べた。2018年3月より外務省はマルチステークホルダーによる「ビジネスと人権に関するベースラインスタディ意見交換会」をスタートさせ、関連省庁に加えマルチステークホルダーとしてNGO/NPOからは「ビジネスと人権NAP 市民社会プラットフォーム」が参加している。

●持続可能性に配慮した調達コード

ロンドンオリンピックをモデルにした「持続可能性に配慮した調達コード」(調達コード)は、「責任あるサプライチェーン」の観点から見ると今までにない価値が高い内容だ。

2016年1月に組織委員会はまず「基本原則」を策定。続いて、2017年1月に「持続可能性に配慮した運営計画 第一版」を、2017年3月に「持続可能性に配慮した調達コード(第一版)」を発表した。

「調達コード」は組織委員会が調達する物品・サービスを対象とし、サプライヤー及びライセンス契約をしたライセンシーが遵守しなければならず、サプライチェーンに対しても働きかけられている。「調達コード」が求めている基準は、環境・人権・労働・経済をめぐる要請や禁止事項である。労働に関しては、国際的労働基準を尊重することが冒頭に記され、具体的にはILOの中核的労働基準の他、リビングウェイジ、職場の安全・衛生、移住労働者の人権が明記され、調達コードに違反した場合は組織委員会に訴える「通報受付窓口」の設置にもふれている。

「調達コード」を絵に描いた餅ではなく実際に機能させていくには、モニターし周知させていくことが不可欠だ。すでに「調達コード」違反のニュースがマスメディアで大きく報じられた。2017年4月には新国立競技場の建設工事現場で働いていた男性新入社員の過労自殺、7月には海外・国内の環境NGOが新国立競技場建設に環境破壊や人権侵害のある熱帯材を使っていると告発した。

ILOによるチェックも実施されるだろう。2017年4月、ILOと組織委員会は、東京オリンピックを通してディーセントワークを広げていくという合意書を締結した。ギター・ローレンスILO多国籍企業局長は経団連で、この合意書について説明している。「ILOは、オリンピック・パラリンピック史上初めて、東京2020組織委員会とパートナーシップを交わした。これはオリンピック・パラリンピックに関わるすべてのステークホルダーに持続可能性につながる行動を、さらに、企業に対しては、CSRを通じたディーセントワークの実現をもとめている。具体的には、ILO多国籍企業宣言を踏まえ、労働者の安全・健全な作業環境の確保、国際基準や各国法制に基づく労働条件の設定などが求められる。」(「週刊経団連タイムズ」2017年10月5日)

私は、政策提言、企業によるグッドプラクティスの学び、ステークホルダー・エンゲージメントも大事だと考えている。しかしながら、ここで見てきたように「責任あるサプライチェーン」問題は、労働者の過酷な現実とそれを知らせ変えていきたいというキャンペーンにより前に進んできた。詳しく紹介できなかったが、日本でも現場を知る人々が日本多国籍企業のサプライチェーンの争議を支援してきた長い歴史がある。

CCC東アジアのキャンペーンとして、私は運営委員会で「東京オリンピック・キャンペーン」を若い世代に提案し、CCC東南アジアとともに実施することに決まった。横浜アクションリサーチは、2004年、2008年のオリンピックで展開された「プレイ・フェア・キャンペーン」の日本のNGO窓口となったが、満足する結果が得られなかった。東京オリンピック・キャンペーンを実施しながら、日本人、とりわけ日本の若い世代に「責任あるサプライチェーン」問題を知り、考え、行動してもらいたいと願っている。

(とおのはるひ:横浜アクションリサーチ、フィリピントヨタ労組を支援する会、CCC東アジア、福島子ども・こらっせ神奈川。多国籍企業調査と労働者の国際連帯運動に関わりながら、神奈川では脱原発運動を通じて地域ネットワーク構築に努めている)

 


(注1)CCC(クリーン・クローズ・キャンペーン)は、1989年に設立された女性中心の国際労働NGOで、世界の衣料・スポーツ用品産業における労働条件を改善し、労働者のエンパワメントを支援する活動を行っている。オランダに本部、ヨーロッパ17カ国に支部があるが、組織替えをし、現在、ヨーロッパ連合、南アジア連合、東南アジア連合、東アジア連合(CCC東アジア)に別れ、連絡をとり合いながら活動している。

(注2)ユニクロキャンペーンについては以下を参照。

  •     遠野はるひ「グローバル・サプライチェーンの現実から」(「ピープルズ・プラン」Vol.76)
  •     遠野はるひ「国際ユニクロ・キャンペーン・ユニクロ香港委託工場の争議物語」(「現代の理論」2018春号)
  •     その他、横浜アクションリサーチのウェブサイトに詳しい。
        http://www.y-ar.org/ja/m-action-jp/2017-09-09-05-52-21/m-uniqlo-campaign.html

(注3)横田増生「ユニクロが未払い賃金を負担するのは世界の常識だ―インドネシアの下請け工場倒産」http://bunshun.jp/articles/-/5427