ユニクロ中国サプライチェーンの現実

―アーティガス労働者に何がおきたかー

中国深圳のアーティガス社(Shenzhen Artigas Clothing & Leatherware 深圳慶盛服飾皮具有限会社)は香港のリーバースタイル社(Lever Style 利華成衣グループ)傘下の工場で、当時、生産全体の約9割はユニクロからの委託生産だったという。このユニクロのサプライチェーンで年金問題に端を発した労働争議がおきたのは、2014年12月初めのことだった。警察による暴力的な介入もあり、支援の輪は香港の労働組合・NGOから世界へと広がっていった。

• 数百人の警官隊がストライキ中の女性たちを襲う

アーティガス社の従業員は約1000人, 中国各地からの農民工が多数を占めた。その9割が女性で10年から20年と勤続し、中には中国女性労働者の退職年齢である50歳にまもなく達する女性たちもいた。

退職後の暮らしに年金等の社会保険は必要不可欠だ。その社会保険料をアーティガス社は法で定められたとおり納付していなかったことが発覚し、2014年12月1日、アーティガス社労働者代表は、会社側に社会保険料の追納をもとめる要求書を提出し、12月8日までの回答を求めたが会社側に無視されたため、12月10日からストライキに突入した。労働者たちはユニクロ製品が船積みのために工場から搬出されるのをストップさせようと、工場のゲート前に夜を徹してピケをはり、弁護士を雇い会社側弁護士と18日に話し合いをする約束をとりつけた。香港のHKCTU(香港職工会連盟)傘下のRCCIGU(香港小売・商業・衣料品製造一般組合)は12月16日に中国ユニクロに要請文を出し、日本のUAゼンセンを通じてユニクロ本社へコンタクトしたと聞く。


2014年12月ストライキ中のアーティガス労働者

労働者の訴えによれば、18日8時、会社側弁護士との話し合いの直前に、武装警官数百人がユニクロ製品を運びだすことを手助けするために、ストライキ中の無防備な労働者を襲った。重傷者1人を含む多数の労働者が負傷し、数十名の逮捕が強行された。女性たちが釈放されたのは12時間後、18日深夜だった。翌、19日、香港および海外の団体多数も共同で抗議声明を発表、19日にはユニクロも声明をウェブサイトに掲載し、「取引先企業の労使紛争に関してコメントする立場でないが、早期の事態解決にむけ対応するように要請する」とした。この他人事のようなコメントに「まてよ」と思うのは私だけでないだろう。ユニクロの厳しい納期が、警察を投入してまで船積みを強行したとも言える。ユニクロの責任は重い。


12月18日数百名の警官隊がストを襲う

12月23日、会社は労働者側弁護士と交渉することに同意したこともあり、警官による暴力、逮捕に傷ついた女性たちは、しかたなく職場復帰を受け入れた。12月24日、会社側との話し合いの当日、HKCTU、SACOMなどの労働団体は、サンタクロースやサンタ帽子で、ユニクロの店頭で抗議行動をおこない、会社が労働者に暴力行為をしないこと、公正な団体交渉をするように指導することを要請した。その後、話し合いが実施されたが、保険料の追納は実現しなかった。

• ストライキをしても、陳情しても

ストライキから半年が経過した2015年6月、工場移転の話が突然浮上した。会社は現工場を閉鎖し、バス・電車で20分離れた新工場へ移転することを発表すると、その日のうちに機械を運びだしはじめた。6月2日、労働者たちは会社に団体交渉申し入れ書を提出したが、会社は受け取りを拒否したばかりでなく、工場移転の承諾書へサインをするように強要したのだ。新工場は現工場よりあきらかにせまく数百名が移転にともなって職を失うことは明らかだった。会社は、保険料の追納をしないばかりか、新工場は5キロしか離れていないので退職しても法で定められた退職金は支払わないというのだ。工場移転の際などには従業員総会を開催しなければならないという労働法も無視した。

会社はリーダーである呉偉花さん(花姉さん)を買収しようとして拒否されると、6月9日にメールで解雇を告知。このメールが転送され花姉さんの解雇を知った女性たちが会社に集まってくると、会社は再度、警官を導入し、花姉さんを含む労働者10数人が逮捕された。この日、暴挙に怒った900人の労働者たちは、仲間の釈放と未払い社会保険料などを支払えと要求をかかげストライキをスタート。12日から会社が機械を運び出すのを阻止するために300人が工場を占拠し泊まりこんで抵抗した。


2015年6月工場を占拠

6月17日、ユニクロは声明を出し「ストライキの事実確認をしている、事態が速やかに改善されない場合にはリーバースタイルとの取引の見直しをする」と記した。しかしながら、リーバースタイル社は何の行動も起こさないばかりか、ユニクロからの注文を他の生産工場に回し生産を続行した。香港の支援者たちは、6月24日に香港のリーバースタイルの社前で抗議行動をおこない、香港の労働NGO・SACOMは6月26日付のユニクロへの公開書簡で、早期解決をリーバースタイル社に要求し企業的責任を果たすよう要請した。

ストライキを継続しながら、女性たちは地方政府の関係部局への陳情をおこなっていたが進展がなく、6月29日から、108人の陳情団で広州市の広東省政府に赴いた。しかしながら、陳情書は受理してもらえず、公園に野宿しながら申入れを継続していたが、7月6日警官隊に無理やりバスに乗せられ、深圳に追い返された。


広東省政府への要請行動

会社は国家権力を味方につけている。この争議は主要なバイヤーであるユニクロにしか解決できないと、7月9日アーティガス労働者たちはユニクロへの公開状を発表した。支援者たちは7月13日に国際署名を開始し、ユニクロにサプライチェーン労働者の権利を守る社会的責任を果たせとせまりながら、15日にユニクロへの国際抗議行動を実施するようによびかけた。日本でも銀座ユニクロ前で抗議行動をおこない、横浜アクションリサーチも参加した。


抗議を続けた労働者たち


2015年7月15日香港での世界同時行動

国際行動がおこなわれた7月15日、ユニクロは声明を発表し、労働者との対話はおこなっている、社会保障などは法に従って支払っている、工場移転に関して解雇はしていないというリーバースタイル社の言い分を掲載し、ユニクロはサプライチェーンでの人権の尊重、労働環境の改善を最優先課題とし、平和的な解決のために対話と合意を積極的に求めていると結んだ。

しかしながら、リーバースタイル社、ユニクロの主張とはかけ離れた現実が存在した。広東省政府への陳情行動の後、深圳警察はリーダー数名を逮捕して、ストライキをやめ和解案に署名しなければ、訴えをとりさげないと恫喝したため、女性たちは自らの要求とははるかに遠い和解案に署名して、ストライキは終わることになった。

しかし正義を求める運動は、これで終わったわけではない。57人の労働者は違法解雇されたとしてリーバースタイル社を相手どり裁判に持ち込んだが敗訴。呉偉花さんも不当解雇されたのみならず、公務執行妨害で4ゕ月間収監されたが、この判決を受け入れがたいものとして控訴をしている。

HKCTU、SACOMなどの香港の支援をグループは、ユニクロ店舗前での抗議行動を継続し、SACOMはユニクロのサプライチェーンの第1回目調査報告「中国国内ユニクロ下請け工場における労働環境調査報告」のフォローアップと第2回目調査報告を発表し、過酷な労働環境は依然として変わっていないことを明らかにした。

ユニクロはこの争議から2年半が過ぎた2018年2月21日に声明を発表し、この争議には2017年7月末で合意が成立したことを確認したとした上で、リーバースタイル社の主張を全面的に認めた。

参考記事:
ユニクロの中国縫製工場でストライキ~はたらくものの権利守れ!
ユニクロのサプライヤー、アーティガス社で労働争議

参考動画:
アーティガス労働者の証言(英語・中国語字幕)