国際課税と金融規制の課題と展望 ―C20東京集会、国際財政構造分科会の報告を中心に―
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- 公開日:2019年05月06日(月)18:07
国際課税と金融規制の課題と展望
―C20東京集会、国際財政構造分科会の報告を中心に―
はじめに
2019年4月21~23日、東京でC20の国際会議が開かれた。C20はG20に連携した非政府系の8つの参画グループの一つであり、国際NGOを主体にして市民社会からG20に政策提言を行う組織である。
C20東京集会に先立って、分野別のワーキンググループが組織され、「C20 POLICY PACK 2019」が作成された。そこには、「環境、気候、エネルギー」、「国際財政構造」など10分野の政策提言がまとめられている。それを基にして東京集会では、全体会議のほかに全部で17の分科会が開催された。そのうちの一つが「国際課税、金融規制、債務問題における展望と課題」と題する分科会である(以下、「国際財政構造分科会」と略記)。
以下では、POLICY PACKの「国際財政構造」の要点、「国際財政構造分科会」の概略を紹介し、国際課税と金融規制に関する取り組みの現状を示してみたい(基本的な情報は、https://civil-20.org/で得られる)。
◆POLICY PACKの「国際財政構造」の要点
POLICY PACKに収録されている10分野の政策提言は、いずれも「G20のコミットメント」、「課題」、「提言」という3項目の構成で作成されている。「国際財政構造」の提言は以下のようになっている。
【G20のコミットメント】では、「金融透明性、違法な金融フロー、課税と不平等」(第一課題)についてG20は、違法な金融フローと闘い、金融透明性を高めるために、①法人・信託の実質的所有者に関する透明性向上、②自動的情報交換の実施、③国際基準を遵守しない法域への防御的措置の検討などを推進すること、課税と不平等の分野では、デジタル経済への課税、BEPSプロジェクトの実施、途上国の徴税能力育成の支援などに取り組むことを表明しているとする。
また「金融規制、金融包摂、債務」(第二課題)については、金融セクター全体の効果的規制という2008年の約束をG20は実行していない一方、債務の透明性と持続性を確保する措置の議論は行っていると述べている。
次に【課題】の項目では、上記第一課題について、タックスヘイブンは透明性向上を強いられておらず、課税の不平等への解決策は示されていないと論じている。
第二課題に関しては、金融セクターへの適切な規制がなされない一方、グローバル金融危機、債務危機のリスクが高まっていると主張している。
それを受けて【提言】の項目では、上記2課題をそれぞれ2分し、合計4課題について具体的な提言を示している。
[1] 金融透明性、違法な金融フロー
この課題については、すべての国が対等に発言できる民主的制度のもとで、次のようなミニマム・スタンダードを定める多国間協定を策定するようにG20に促している。
a) 情報交換における共通報告基準の適用、口座所有者の預金総額に関する統計の公表
b) 実質的所有者の登記制度の構築、オンライン上での無料公開
c) 多国籍企業の国別報告書のオンライン上での無料公開
- d) 非協力的な法域に対する集団的対抗措置の創設、低所得国への技術的・財政的支援
[2] 課税と不平等
デジタル巨大企業のみでなく包括的な課税改革にコミットすることをG20に求めている。
a) 多国籍企業の関係法域に利益を帰属させる包括的アプローチ、および経済実体に基づく納税主体の定義の策定
b) 生産要素・消費要素の均衡を図り、納税者・当局のコストを削減し、ビジネスにとっての確実性を確保できる利益配分に関する原則への合意
c) BEPSプロジェクトの多国間協定の受け入れ、さもなければ留保理由の説明
d) 自国の税制および2国間租税条約が他国(特に途上国)に与える影響評価を含む波及効果の分析
e) 課税におけるジェンダー分析の実施およびジェンダーバリアーへの対処
f) 不平等の測定、違法な金融フローの特定、必要な場合の富裕税の適用などを可能にするグローバルな資産登録制度の開発
[3] 金融規制と金融包摂
新たな世界金融危機を防ぐための協調戦略、および途上国の財政優先課題に適応するための金融改革をG20は進めるべきである。
a) システム上重要な金融機関(SIFIs)に対するさらなる規制
b) 証券化商品、デリバティブ、シャドーバンキング、格付け会社、フィンテック、暗号通貨などのシステム上の新たなリスクに対する措置
c) 短期資金の流出入に関する中央銀行、IMF等の協調的な取り組み
d) マネーロンダリング・テロ資金対策を理由とした非営利団体の金融サービスからの排除を防止する適切な取り組み
e) 国際協調による包摂的な取り組み
・社会的・環境的活動に対する資金供給
・社会的・環境的影響評価の投資判断、金融政策への適用
・SDGs実施、金融投機規制のための国際連帯税の導入
f) 各国における多様な銀行システムの構築、女性、地方経済、中小企業、インフォーマルセクター、貧困層等への金融の確保
g) G20財務大臣はB20に加えC20とも意見交換
[4] 債務
債務危機を防ぐための大胆な行動
・債務危機解決のための債務再編メカニズム構築を図る議論の開始
・債務持続可能性評価はすべての債務を対象とする
・政府債務に関する情報の公開、ローン・債務の登録制度構築
・G20は公的・民間債権者による状態依存債権(SCDI)の導入促進
◆国際財政構造分科会の概略
C20の国際財政分科会では、Tax Justice Networkのジョン・クリステンセンとSOMO
のミリアム・スティヘレが報告をした。
クリステンセンの報告は以下の内容を含んでいた。
・2003年以来のTJNの要求により、2012年にG20はタックスヘイブン透明化の方策を受け入れた(税務情報の自動交換、多国籍企業の国別活動レポート、BEPSの包括的検討)。
・しかし、タックスヘイブンの害悪はなお存在している(オフショア子会社への利益移転、違法な資金移動、法人税引下げ競争)。
・2015年のBEPSプログラムによれば、「独立企業原則」に基づく多国籍企業課税は時代遅れになっており、実態に合った新しい方式が必要とされている。
・TJNは以下の5項目を要求する。
1) すべての法域が会社・信託の実質的所有者を開示し登記すること
2) すべての法人税の例外措置を議会に開示すること
3) すべての多国籍企業が使用する国際財務報告基準をOECDが採択すること
4) 多国籍企業の利潤を、売上その他の要件をベースにして国別に配分する国際ガイドラインをOECDが準備すること
5) 途上国の税務行政の技術援助として、国境なき税務官を支援すること
スティヘレの報告は以下のような内容であった。
・G20は金融規制の約束を果たしていない(巨大金融機関、影の銀行システムの規制)。
過剰な債務の問題は未解決である。
・金融システムには多くの問題がある(不健全な肥大化、途上国の資金不足、危機発生の
可能性など)。
・G20金融改革への提案(規制緩和中止、巨大金融機関の規制、リスク商品の監視、マネ
ーロンダリングの防止(国際送金は除外)、無制限の金融自由化に歯止め)。
・G20による持続可能で包摂的な金融の提案(社会的・環境的分野への金融、投機を抑制
しSDGs資金を創出する金融取引税、多様な銀行システム)。
・債務危機は継続している(資金流出、債務膨張、債務管理の困難化)。
・債務危機防止に向けたG20への提案(独立した透明性のある債務再構築メカニズムの
確立、すべての債務を含めた債務の持続可能性評価、債務に関する情報開示など)。
・結論は以下の5項目。
1) G20財務大臣、中央銀行総裁は、貧困と不平等をなくし、債務と金融の危機を防ぐために大胆に行動すること
2) G20は金融機関改革を推進し、環境的・社会的活動への金融を促すこと
3) G20は債務の拡大を抑制し、債務問題解決のメカニズム改革に取り組むこと
4) 投機的な資金移動を制御し、金融・債務の不安定化を抑制すること
5) G20財務大臣、中央銀行総裁は、市民社会と対話すること
◆欧州NGOの先進性
C20 POLICY PACKと分科会報告を通じて感じられたのは欧州NGOの先進性である。
特にTJNは専門家を結集した政策集団として、OECDやEUの当局と対話を重ねてきたと
推測される。BEPSプロジェクトの作成にあたっては、TJNの要求(国別報告書の作成な
ど)がある程度取り入れられたのではないかと思われる。
多国籍企業課税については、これまでの独立企業原則からユニタリー方式(グループ全体
の利益を合算し、公式に基づき国別に配分)への転換が徐々に進展していくだろう。特に、
GAFAなど巨大IT企業への課税はそうした転換の契機になるかもしれない。
かつてTJNのリチャード・マーフィーは、ユニタリー方式に向けての暫定案として、代
替ミニマム法人税(AMCT)を提起した(マーフィー『ダーティ・シークレット』岩波書店、
160-163頁)。これは、各国共通のミニマム法人税を設定し、それより低い税率国に配分さ
れた利益は戻されてより高い税率国に再配分される仕組みである。
こうした共通最低税率の設定は、すでにドイツ・フランス政府が共同提案し、アメリカも
同調する可能性がある(「日本経済新聞」2019年4月11日)。もちろん実現までには紆余曲折があるだろうが、専門的知見を備えたNGOが提案し、主要国政府がそれを採用するというプロセスがうかがわれる。グローバリゼーションを民主的に制御する試みは、少しずつ前進しているといえるのではないだろうか。 (2019年5月6日)